切れなくなるスイッチ

 周囲の状況に合わせて、人間は様々な顔を見せる。どれほど豪放磊落がウリの人であっても、例えば天皇陛下の前では普段どおりには振舞えないだろう。特別な思想とかに関わりなく、そうである筈だ。

 そこまででなくとも、家族と過ごす時間と、仕事関係の人と接する時では、言葉遣いや話す内容が大きく異なるはずだ。これは、大人として生きてゆくうえで必要な能力だ。出来ないと損をするし、周囲にも迷惑を掛ける。

 しかし、その人の個性というか、基本的な考え方は変わらない。周囲の環境に合わせて、表現を変えているだけだ。意識して別人を演じたり、人を騙そうとしていたり、解離性同一性障害(多重人格障害)であるなら別だが。
 SMでは、「サド/マゾのスイッチが入る」という言い方をする。日常モードから非日常モードに変わる際に、性格や顔つきが変わることを指した表現だ。確かに、そういう不連続な変化はあると思う。

 マゾヒストではないので、そちらについてはわからない。ことサディストに限っていえば、スイッチがオンになってサディズムが満たされた状態を長く経験すると、スイッチが切れにくくなるように感じるのだ。

 本人はスイッチが切れたと思っていても、オンの時の思考がオフであるはずの時を徐々に侵食してゆく。思考は、ふとした折に言葉になる。物腰にも影響を与える。

 サディストとしての成功体験、つまり支配・征服・所有したという実感。そして、それがもたらす爆発的な快楽。それを繰り返し味わうことで、思考全体が次第に偏ってゆく。

 人間の軸は一つ。一つだから軸だともいえるが。軸の指す方向が変わっていっても、TPOによる切り替えは続けられるだろう。しかし、He is not he was(彼は昔の彼ならず)といわれるのは、避けられない成り行きかもしれない。
「切れなくなるスイッチ 」 is writed by マスターOB@SM主従関係の相克.
category
日常と非日常
genre
アダルト
theme
SM